働き方改革 オフィスの虫めがね・マグネットスペース/作業スペース編

POINT
  • マグネットスペース
  • ワーカーの空間の好み
  • オフィス研究・調査の重要性

マグネットスペース

本ブログをご覧になっている皆さまいかがお過ごしでしょうか。コロナウィルスの影響で在宅勤務となっている方が多いのではないでしょうか。これをきっかけに、日本でも本格的に在宅勤務が定着することになるかもしれません。

そうなると、オフィス設計会社である弊社としては少し困るところもあるのですが…逆に、オフィスから多くの人が離れた今は、オフィスデザインについて改めて考えることが出来るチャンスとも言えるかもしれません。

今回は、皆さんがオフィスに対して抱いていた疑問にお答えできるような研究をご紹介できたらと思います。

近年は、オフィスの中に「マグネットスペース」を設ける企業が増えてきています。
マグネットスペースとは、その名前の通り人を呼び寄せる・引き寄せるためのスペースです。よく見かけられるものとしては、カフェコーナーやライブラリー、掲示板スペースなどがあり、部署関係なく様々な相手との出会いが生まれ、オフィスでの横のコミュニケーションや、インフォーマルなコミュニケーションが増加することをねらって作られます。この「横のコミュニケーションを増やす」ということは、近年のオフィスの重要なテーマの一つでもあり、特にフリーアドレスオフィスが増加してきたここ数年では重要度が高まってきています。

しかし、実際にはどのくらい、マグネットスペースで会話が生まれているのでしょうか?
約50名が入居する約210坪(約700㎡)のフリーアドレスオフィスで、マグネットスペースの利用状況を調査した研究があります。

この研究では、マグネットスペースの滞在時間はほとんどが1分未満、人と人が遭遇して会話に発展するのは約50%という結果が出ました。これだけ見ると、あまり人を引き留められていない、会話を促していないにも見えます。もちろん、滞在時間が長い方が人と出会う確率は当然上がります。ですが、滞在時間が1分未満だとしても、30秒を超えると誰かしら1人と遭遇する確率が上がり、40秒を超えると会話が発生することが多い、ということも明らかになっています。

この結果から分かるのは、ただマグネットスペースを作るだけではなく、なるべく長く滞在してもらうことが、コミュニケーションの促進には大切だ、ということでしょう。ただし、時間を長く束縛するものばかり置くと、そもそもの利用率が下がってしまうことも考えられます。ですので、例えばすぐに飲めるウォーターサーバーや給茶機と、少し時間がかかるコーヒーマシンを同じところにおいて、ワーカーが選択できるようにするのはいかがでしょうか。オフィスコンビニや自販機のような、選ぶ・迷うものを置くことも効果的かもしれません。そして何より重要なのは、仕事中に席を立って、気兼ねなくマグネットスペースに立ち寄ることが出来る雰囲気を作ることでしょう。上司や先輩社員も積極的にマグネットスペースを活用することで、他のワーカーもマグネットスペースを使いやすい雰囲気が生まれ、インフォーマルなコミュニケーションが増えるのではないのでしょうか。

ワーカーの空間の好み

ABW(Activity Based Workplace)が、近年のオフィスの重要トレンドとなっています。ご存知の方も多いでしょうが、ABWとは、オフィスの中に働き方に合わせた様々なスペースを用意し、ワーカーが自分の作業や好みに合わせて働く場所を選べるようなオフィスです。特に、様々な業務に合わせて働く場所を選択できる、ということは、ABWのメリットでもあります。一方で、実際にワーカーがどのような空間を求めているのか、どのようなワーカーがどこを使いたいと思うのか、ということは、皆さん気になっていませんでしょうか?

あるメーカー企業の約200人のワーカーを対象に、ワーカー個人の特徴と、働く時のオフィス環境の好みについて調査した研究があります。

この研究では、ワーカーを「色々な業務をまんべんなくやるタイプ(一般型)」「決まった事務作業やメールといった業務をしているタイプ(定型型)」「情報収集をしたり考え事をすることが多いタイプ(思考型)」「会議が多いタイプ(共有型)」に分類して、タイプ別にオフィス空間別のニーズを尋ねています。その結果、決まった仕事(事務作業など)のための空間や気分転換のための空間は、定型型・思考型で需要が高く、1人で落ち着ける空間が求められていることが分かりました。また、人通りやお互いが見える環境は共有型、標準のデスクとは高さが異なるデスク・テーブル(作業面)の環境は、共有型・思考型でニーズが高いことが分かりました。通常と異なる高さのテーブルが求められている、という点はやや意外なのではないでしょうか? おそらく、考えを広げる・まとめる時や、打合せの際と、通常の仕事では求められる机の高さが異なる、ということなのでしょう。

一方で、それぞれの空間に求められている条件とは何なのでしょうか?

ここでは、他のワーカーとの距離が近い・遠い、開放的か閉鎖的か、デスクの高さが標準的・異なっている、という3つの軸で、ワーカーがオフィスの各空間に求めるものを尋ねています。考えをまとめる・気分転換の空間は、特に他のワーカーとの距離が離れていて、閉じた環境、かつデスクの高さも標準と異なるものがよい、という結果になりました。気分を変えるためには一旦普段のワークスペースから離れて、机の高さも含めて違った雰囲気になることが必要なのでしょうか。一方で、考えを広げる空間は、他のワーカーとの距離が近く、オープンな空間が求められています。ただし、上司との距離は離れている方がよいという意見も多く、上司とそれ以外のワーカーでは求める距離感が違うことが見え隠れしていますね(笑) 

しかし、コミュニケーションを取りながら作業する空間では、上司を含めた他のワーカーとの距離が近く、オープンな空間がよいと答えられています。おそらくですが、上司に作業内容を確認してもらいながら作業を進め、素早く意思決定を行ってもらうことが求められているのではないでしょうか?

一口に「様々な空間を用意する」と言っても、ワーカーのタイプによって求めている空間が全く違い、「様々な空間」の中身についても、空間の種類によってワーカーが求めている要素が異なることも分かりました。特に、上司と他のワーカーとの距離や、作業するデスクの高さのニーズが異なることは、意外だったのではないでしょうか? また、これを踏まえて在宅勤務の環境を考えてみると、作業に応じて空間を変えられない、他人との距離感が変えられないことが、ストレスの原因の1つなのかもしれません。

オフィス研究・調査の重要性

オフィス空間に関する研究をご紹介してきましたが、いかがでしたでしょうか? そうだろうと納得したところも、意外だと感じたところもあったのではないかと思います。

オフィスに関する研究や調査の結果が、実際のオフィス作りに生かされるようになってきたのは、最近になっての話です。ですが、コロナウィルス後(ポストコロナ)のオフィスは、何故オフィスを作るのか・オフィスにどのような役割・効果を求めるのか、という点により重きが置かれることになるでしょう。その時に大事になってくるのが、今回ご紹介したような研究や、社内での調査といった、「このような効果がある」「こういうものが求められている」という根拠(エビデンス)だと思います。そう考えますと、今後、オフィスを研究・調査することはますます重要になってくるのではないでしょうか。

弊部署・働き方研究室では、オフィスコンサルティングだけではなく、働き方に関する研究や、オフィス変革後のアンケート調査なども行っています。ポストコロナのオフィス作りで、私たちの出番が増えるといいな、と考える今日この頃です。

働き方デザイン部 働き方研究室/S・W