働き方改革 リモート会議じゃ何もできない(在宅勤務備忘録・続編その4)

POINT
  • 開廷!リモート会議裁判
  • リモート会議の実力
  • リモート会議を試す理由

開廷!リモート会議裁判

毎週顔を突き合わせて行っている会議。アクリル板も、マスクも、アルコール消毒も、しっかり徹底しています。じゃあ、今週はこんなところで…という雰囲気のなか、誰かが口を開きます。「次回の打ち合わせは、リモートで行いませんか?」人によっては、この言葉を発するのは想像よりも難しいのかもしれません。「リモートなんかやろうと思わなかった」が7割もいると知れば、なおさらです。しかし、一体どうしてこれほどまでリモートには悪いイメージがついて回るのでしょうか?私が思うに、これは一種の思い込みなのではないかと。

ひとつは「リモート会議なんかしなくてもいい」という思い込み。連日、コロナ関連のニュースが入ってきます。私たちはそのニュースを聞くたびに、ついつい「内と外」の接触によるものだと思いがちです。外から帰ったら手洗いうがいをしましょう、外出するときはマスクをしましょう、飲食店では会話を控えましょう…内は安全で、外は危険。これを家と会社に当てはめるならば、あながち間違いではないかもしれませんが、しかし、社内と社外と理解されたならば、それは全くの誤りです。会社員の第一のホームであるオフィス、そこにいる人はなんだか家族よりも家族のように思われるかもしれません、しかし彼らだって外の人。社内の人だから、まだ社内で発症者がいないから、といって会議室で会議をするのは、バイアスのかかった感染症対策であるといえます。

それに、前回わたしは「在宅勤務の準備運動としての、リモート会議」を提案いたしました。そもそも社内でリモート会議すらできない会社が、在宅勤務などできるわけがありません。詳しくは前回のコラムを読んでいただければと思いますが、リモート会議は在宅勤務の準備運動であり、そして在宅勤務は来るリモートワーク全盛時代の準備運動にうってつけです。「リモート会議なんか」という人に限って、リモートの導入を軽く考えているものです。道近しといえども、行かざれば至らず、結局のところ、リモート会議もリモートワークもその本質は同じですから、とりあえずリモート会議から始めてみる、これは非常に有効な一手であるといえます。

リモート会議の実力

またあるいは、「リモート会議は対面の会議に劣る」という思い込みもあるでしょう。リモートで会議をしたってうまくいかない、と。先に言いますが、それも誤りです。

リモートワークにたびたび挙がる問題として、「チームの熱量がうまく伝わらない」というものがあります。チームとしての一体感とか、スピード感とか、そういった組織の空気を感じることができない…確かに、これはありえます。以前のコラムでも触れたのですが、オフィスには、いろんな人が集まって交流できるという機能があります。私たちが感じる一体感の正体は、この機能のおかげでした。そして、これをリモートで置き換えることは今のところ不可能、よってリモートワークではチームの一体感が伝わりにくくなる、というわけです。これはリモートワークを取り入れるうえで非常に重要な課題であり、今でも研究者の間で熱く議論が交わされています。

ところがそれは普段の業務の話。いわゆる日常のコミュニケーションの話です。具体的には、近くで忙しそうにしているとか、仕事の電話が聞こえるとか、相談したかった人と偶然すれ違うとか、どちらかと言えば、オフィス内でふとした瞬間に行われるコミュニケーションによって保たれていた機能です。これを「リモート会議では相手に何も伝わらないらしい」と解釈してしまうのは、明らかに誤り、まさに思い込みです。日常のコミュニケーションと会議とでは、伝える情報がそもそも異なります。コミュニケーションではオフィスに劣るからって、なにも会議まで劣っていると決まったわけじゃあ、ありません。
…じゃあ会議はどうなのかって? それについてはいくつかお話を引用いたしましょう。

ザイマックス総研 ポストコロナに戻るべきオフィスとは?
https://soken.xymax.co.jp/hatarakikataoffice/viewpoint/column044.html

こちらの記事では米軍司令官の話が紹介されています。毎日7500人相手にリモート会議を行ったというスタンリー司令官。彼曰く、物理空間で空気感を共有するのは容易だが、リモートではそれが難しい、と(先ほどの一体感のことですね!)。その一方で、リモート会議では相手に与える情報が限られる分、カメラから目を逸らすだけでも、相手に大きな印象を与えてしまうのだとか。よって対面会議よりも集中して関係構築に注力すべし、と彼は言います。
さて、恐らく「リモート会議は対面に劣る」と軽く口走る人の多くが、そもそもリモートじゃなにも伝わらない、と考えているのではないでしょうか。ところが実際には、視線ひとつで多くが伝わるため、より一層の準備が必要である、というわけです。これは下手すると、どうせなにも伝わらないという思い込みが足を引っ張っていた可能性すらあります。

あるいは、かつてプレゼンテーションの神様といわれたスティーブ・ジョブズのことを思い出してみましょう。今でも伝説として語り草にされる彼のプレゼンは世界中に配信されていました。そのスタイルが(色んな意味で)唯一無二であることを差し引いたとしても、その配信はとても「何も伝わらない」なんて言えない、素晴らしい内容のはずです。ジョブズは練習に丸二日、リハーサルにさらに二日かけたといいます。それだけではなく、手振りやセリフの間(ま)、さらにはあのファッションまで、極めて綿密に練られた台本が準備されていたとか。まさにリモートだからこそ、より準備せよ、というわけです。

リモート会議を試す理由

この二つのエピソードは「そこまでしなくては物が伝わらない」というよりも「リモートであってもそれだけ物が伝わる(から気を付けよ)」と解釈されるべきでしょう。例えあなたが米軍の司令官でもGAFAのCEOでもないとしても、7500人を相手に毎日リモート会議をしたり、世界中に同時通訳でプレゼンを配信したりする時が来るかもしれません。万が一それもないとしても、リモート会議を試してみる価値はあるはず、なぜなら、リモート会議には対面に比べてメリットも多いからです。

一番はもちろん、場所も時間も選ばないということ。いま客先から帰ってる途中だから出られません!なんて過去の話。どこかノートPCを広げられる場所さえあれば、いつだって会議に参加できます。それに、資料を紙で用意する必要だってありません。会議の内容によっては資料が膨大な量になることもあるでしょう。それを人数分印刷して、分けて、まとめて…なんと無駄なことか。せいぜい数時間の会議のために占領されるプリンターと、無駄にされる資源と、あなたの後ろに刺さる冷たい視線に、気づかないフリをするのはもう十分。今は以下に社員を効率よく働かせるか、という時代です。そのうえ、デジタルの配布資料のほうが何かと取り回しも良く、急な変更にも対応しやすいはずです。印刷してからミスに気が付き、人数分刷り直し…でも何とか間に合わせました!って、その根性だけじゃ、これから先を戦うのは難しいとは思いませんか?。リモートが主体になれば、会議室がオフィスを圧迫することもなくなります。その空いたスペースで、どれだけのことができるやら、考えるだけでもワクワクしますね。そしてなにより、感染症対策。

これらの利点を跳ねのけてまで行う対面会議も、もちろんあるかと思います。しかし大半がそうではないはず。そのたくさんある「リモートでやってもいい会議」のうち、自分でコントロールできそうなものから、リモートにしてみるのはいかがでしょう?例えば、朝の部内ミーティングなんかは、リモートで始めるのにちょうどいいでしょう。実はあなたが思っているよりも、在宅勤務に関心がある人は多いのかもしれません。「いきなりお客さんとリモートぶっつけ本番よりも、まずは社内で練習しておきませんか?」といった具合で、提案してみる価値は、ありますよ。

提案…と言ったのはもちろん、このコラムを読まれているほとんどの方が、在宅勤務の決定権を持っていないであろう、という予想です。当たってますか?恐らくあなたは、これから上司に対して「リモートワークのメリット・デメリット」を提案、というよりむしろ説得、しなくてはいけないのでしょう。そしてそのネタ探しにインターネットをさまよっている…お任せください。そのネタ帳に数行書き足せるくらいのものは、ご紹介できるかもしれません。次回は、リモートワークの提案について、もう誰も首を横には振らせないぞというつもりで、考えてまいります。

WPD/S・O