働き方改革 オフィスと福祉環境~誰もが働きやすいオフィスを目指して~

POINT
  • 多様な人材が働けるオフィスづくりが急務に
  • デザイナーが考える“福祉環境が整ったオフィス”とは
  • 過去の事例母親目線をデザインに活かす

多様な人材が働けるオフィスづくりが急務に

安倍内閣が2015年に掲げた『一億総活躍社会』によって、誰もが生き生きと社会で活躍できるようにする取り組みが進められています。これは一言でいうと、少子高齢化が進む中、経済社会を支える働き手が減ることを食い止めるための施策です。
これからは、妊娠中の女性や子育てや介護中の方など、さまざまなバックグラウンドを持つ人が安心して働ける環境を整える動きが、より活発になるでしょう。さらに障がい者雇用率制度により、障がいを持つ人も仕事で活躍できる場が更に増えていくことになります。近年急速に理解が進んできたLGBTへの配慮などもあわせて、すべての企業が“福祉環境に配慮した、誰もが働きやすいオフィス”を目指す必要があるのです。

私は、ここ数年オフィスデザイン以外に、病院などの医療施設の設計・デザインを多く手掛けてきました。ユニバーサルデザインの考え方に触れ、オフィス以外の設計の視点に大いに刺激を受けました。つまずきにくい床材やソフトクロージングドアなど、医療施設では当たり前になっている設備や什器は、オフィスにも応用できるのではと考えていました。

また、とある資格試験会場のデザインを行いました。年齢性別や障がいの有無を問わずあらゆる人が受験されることもあり得る為、誰でもストレスなく利用できる空間にしなければなりません。特にサイン計画としては他の案件と異なり、配慮すべき点が特徴的でした。白ベースに黒い文字で、通常のサインよりも文字を大きくして、遠くからでも部屋の番号がはっきりと分かるように。今後、多様なワーカーが増える事でこのように配慮されたオフィスのサイン計画が増えていくのではないかと思います。

デザイナーが考える“福祉環境が整ったオフィス”とは

このような経験から、私なりに考える福祉環境が整ったオフィスとは、以下の条件を満たした空間になります。

●車いすの方が問題なく通れる動線計画
●段差を無くし、スロープを設置
●滑りにくい・つまずきにくい材質の床材の選定
●さまざまな身長・肢体障がい者でも、容易に高さが調節できる昇降デスクを採用
●さまざまな身長・肢体障がい者でも、問題なく使える位置にセキュリティカードリーダーを設置
●重く感じにくいハンドル・ゆっくり閉じる引戸(ソフトクロージングドア)を採用
●視覚障がい者も認識しやすい室名サイン
●筆談用のホワイトボードを設置
●「だれでもトイレ」を設置

また、少しユニークな事例としては、外国人労働者が増えることでオフィスにも宗教上の配慮をする必要も出てくるかもしれません。実際に、過去そのような依頼をある企業から受けたことがあります。オフィス内に、床にひざまずいて神に祈るための「お祈り部屋」を作りたいとのことで、その宗教ではお祈りの前に手足を洗わなければならず、水回りの増設に苦労しました。外国人労働者が多く働く工場や研究施設などで、今後こうしたニーズが増えてくるのではないでしょうか。

水回りといえば、トイレの改修依頼もここ数年とても増えています。車いすの方でも使えるようにというオーダーで、室中で車いすを回転させられるだけのスペースを確保し、手すり等を増設します。オストメイトの設備を追加する事例も多いですね。また「だれでもトイレ」としてLGBTの人でも使いやすいように、男性用・女性用トイレの間にさりげなく設置するなど、場所の配慮も必要です。

昇降デスクに関しては、弊社は現在100%導入が完了し、社員全員が電動スイッチで板面の高さを自由に上げ下げできる環境で仕事しています。私は小柄な為、自分の座高に合わせて板面を変えられるのはとても便利で、もはや手放せません。昇降デスク導入前は、チェアに座ると足が床につかず、足元にカーペットを積み重ねて何とか足を固定させて仕事していました。昇降デスクは身長や体格の個人差に合わせられるのはもちろん、車いすの方にも有用です。今後さらに、多くのオフィスで導入が進めばいいなと感じています。

過去の事例と母親目線をデザインに活かす

私は数年前に出産し、会社の育児休暇制度を経て復職後、現在はデザインの仕事と育児の両立をしています。育休中当時は保育園の待機児童数が多く、保育園を新設するにも近隣からのクレームで建設中止…といったニュースが相次いで流れていました。私自身も保育園探しにとても苦労し、本当に復職できるのかと不安だった日々を思い出します。

これも政府主導の『一億総活躍社会』によって規制緩和が進み、オフィス内に保育所を設置するといった事例も増えてきました。一見すごく良いことのように思えますが、設計のスタディプランを作ってみるとこれがなかなか難しい。特に高層のオフィスビルとなると、避難経路の確保に悩まされます。エレベーターは上階からの避難者でいっぱい、あるいは動いていないかもしれませんし、かといって乳幼児を連れて何十階分もの階段を下りるのは不可能です。

さらに幼児用トイレ等の水回りの確保、転倒しても安全な床材、指挟みのないドア、採光率、乳幼児の年齢と人数に対して必要な保育室面積の確保、完全に視覚が遮断されないよう壁の一部をシースルーにする等々…オフィスを保育施設に造り替えるには、考えなくてはならない要件が山のように出てきます。やはり、オフィスは大人が働くための空間であるのだと考えさせられました。

どんなオフィスでもオーダー通りに造れるというわけではありませんが、少しの工夫で、いろいろな人が働きやすい空間に生まれ変わらせることは可能です。医療施設や英検会場等、過去に手がけた案件の事例を活かし、また子供を育てる母親としての視点も取り入れながら、福祉環境に配慮したオフィスづくりのお手伝いをしてまいります。

デザイン部/A・O