働き方改革 在宅備忘録 その1 ~ 働く場所を選ぶということ

POINT
  • 2020年、オフィス業界が変わるとき?
  • 新しいオフィスの在り方
  • オフィスと”あなた”の関係
  • オフィス選択の新時代は来る?
  • 在宅勤務備忘録

2020年、オフィス業界が変わるとき?

祗園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり…今から800年も昔に詠われていたこの定理に、私たちはどれほど踊らされればよいのでしょう。文明が始まってからというもの、あらゆる文化において「絶対」はありませんでした。いつの時代にもニューカマーは現れ、新技術を以て常識を塗り替えます。電気、電話、インターネットといった代表的な情報インフラだけでなく、電子書籍に自動運転、あるいは消えるボールペンまで?20年前にCDプレイヤーが消えることを予測した彼は、果たしてその20年後にCDそのものが消えようとしていることまで予測できたでしょうか。そしてそれと同じ年に原油価格がゼロ円を割ることは? 娑羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。どんな文化にも必ず転換期は訪れるものです。書籍業界、音楽業界、自動車業界…そしてついに私たちオフィス業界のドアが叩かれる順番がやってきました。

在宅勤務の必要が全国に広がるいま、おそらくオフィスへの関心は今まで以上に高まっていることでしょう…私たちにとっては、主に悪い意味で。「オフィスって本当に必要なの?」時の流れは止められません。もしもオフィス不要論がこれから論じられるというならば、私は、それはそれでいいと思っています。私はこのコロナウイルスの騒動が日本の働き方のショック療法になれば、それはつまり、今まで仕事はオフィスに行ってするのが常識であった日本の働き方を、一旦天秤を逆に弾くことで均衡を取り戻す…そのきっかけになればいいと思うのです。その時代において人は働く場所を自由に選択し、それぞれに合った働き方を手に入れることでしょう。もはやそこにあるのは今まで通りのオフィスではなく、新しい形のオフィスです。というよりも、新しいオフィスの在り方を社会から求められる、といったほうが良いかもしれません。

新しいオフィスの在り方

では新しいオフィスの在り方とはなんでしょう?均衡がとれた天秤とは?これを問うにはまず、オフィスというものの考え方を変えなくてはなりません。今までは「オフィスが働き方を」決めてきました。オフィスの広さが従業員数を、オフィスの場所が住む場所を、オフィスのレイアウトが座る場所を、机の広さが仕事の仕方を、決めてきたのです。もちろん私たちはお客様の働き方に合わせてオフィスレイアウトを作成しますが、それはむしろ会社の働き方を監督する法律を作っている、と言ったほうが良いでしょう。今の日本にとって、オフィスとはルールなのです。

ところが”その時代”ではそうではありません。「働き方がオフィスを」決める必要があります。従業員がオフィスの広さ、場所、レイアウト、机の広さを決めるのです。コワーキングスペースによって既にその気流はありましたが、それはあくまでも限定的なもの、今回の在宅勤務の登場こそ天秤に均衡をもたらす決定打であると言えます。会社からPC一式を家に持ち帰って仕事をしている人もいるほど、多くの人に在宅勤務を強制しているのです。つまりは働く場所の選択肢を、そしてその決定権を、会社あるいは従業員が持つということ。これが新しい働き方であり、そのときに「選ばれる側」としてのオフィス、これこそが私の言う新しいオフィスの在り方なのです。

そう、その時オフィスは選ばれる側にあります。もはやあぐらをかいて「毎朝9時に出社したまえ」なんて言っている場合ではありません。オフィスが選ばれる側にあるというならば、その競争相手はもちろんコワーキングスペース、カフェ、そして自宅ですが、オフィスは彼らより優れた点と劣った点を速やかに認め、これを分析し、売り込む必要があるのです。そこで重要なのは、オフィスにも劣った点があるということ。いまこの原稿を書いている私でさえ在宅勤務のメリットをひしひしと感じているのですから、今まで通りの態度でオフィスがあって良いはずがありません。安くないテナント料を払って借りているオフィス、もしも「オフィスってもしかしていらないのでは?」という声が聞かれたとき、私たちは何と答えればいいのでしょう。

オフィスと”あなた”の関係

さて、なぜ私は皆様にこんな話をするのでしょうか?オフィス業界の衰退、転換、あるいは新時代の話が、最終的なカスタマーである皆様にどのような関係が?

…それまでオフィスが働き方を選んでいた時代から、働き方がオフィスを選ぶ時代になるということ、これはつまり、働き方の監督権が須らく従業員に移るという当然に他なりません。それまでは、集中するならこのスペース、コミュニケーションをとるならこのスペース、と目的ごとの場所をオフィスが用意してくれました。これは言い換えれば「集中せよ」「コミュニケーションをせよ」という行動の指針、働き方の指針を、オフィスを通じて会社と私たちデザイナーが皆様に強要していたようなものです。ところが働き方が場所を選ぶとするならば、従業員が自ら「集中しよう」「コミュニケーションをとろう」と働き方を監督する必要があります。働く場所を選ぶということは、働き方を選ぶということなのです。

私が一番恐れていることは、その選択を誤ること…在宅勤務の良いところだけを知り、あるいはオフィスの悪いところだけを知り、場所の選択をうまく扱えないことです。場所の選択を間違えれば、働き方はたちどころに磁力を失い、全く狂った羅針盤となってあなたを惑わすことでしょう。作業効率も機会もすべてが失われ、「ああどうしてこうなったんだろう、やはり昔の方が良かった」…失われた時間は戻らず、あるいはもっと大切なものさえ失うかもしれません。それまでのモノラルな働き方からステレオな働き方にせっかく移れたかもしれないというのに、それではあまりにも残念です。

オフィス選択の新時代は来る?

じゃあ実際、そんな時代が来るのでしょうか?果たして働く場所を個人が自由に選択できるなんてそんな時代が?確かにこの一年で世界は大きく変わり、史上初めてオリンピックが延期になり、史上初めて原油はマイナスをつけ、史上初めて私は家で働いているけれど、だからといって働く場所を自由に選択できる時代が来るなんて本気で?働き方改革が宣言されて四年、全国の都市部にはリモートワーク用のスペースが揃いつつあり、IT機器の進化で私たちデザイナーもノートパソコンで仕事ができるようになりました。クラウドサービスも個人のスマホに1TB、2TBは当たり前、極めつけは従来の100倍の通信速度を誇る5Gの整備が始まっています。VR技術や自動運転技術、4K/8Kストリーミングといったテクノロジーが次々に生まれてスマートシティなんて言われている現代。にもかかわらず働く場所を選ぶ時代が来るだって?

…結局、そうした時代が来るか来ないかというより、どういう時代にしたいのかである、という答えでここは煙に巻いておきましょう。なぜなら、このコロナがそうであったように、変化はある日突然訪れるのではなく、緩やかに訪れるものです。今後、働き方に関する選択を日本中の企業が迫られ、そして恐らく、選択できる企業とできない企業に分かれるのではないかと私は思うのです。その緩急はあれど、私は決して、「来る」かどうか分からないハルマゲドンについてお話をしているのではなく、むしろこれから皆様が「行う」であろういくつかの選択について、お話しているのです。

在宅勤務備忘録

これは単なる私の在宅勤務レポート、要するに日記です。これからの未来、もしかしたらこのレポートが新しいオフィスの在り方、新しい働き方のちょっとしたキーワードになるかもしれません。今の私たちはまるで競合相手の商品を無理矢理に使わされているような、そんな気分ですが、そうして初めて分かることだってあるというもの。「案外、悪くないじゃん」、とね。もちろんその逆だって…私はこの日記に在宅勤務の良しと悪しを具に記録したいと思います。できれば皆さんにもしていただきたいですが、ああ、在宅勤務の記録、そんなもの一体誰が取るのでしょうか?誰が読むわけでもないものを?仕事終わりに?来るかどうかも分からない時代に備えて?私はこれが仕事だからするのです。真面目に。少しばかりの専門知識を添えて。その内容に会社ごとの差異は多少ありましょうが、なるべく普遍的な内容にするつもりです。

そして在宅勤務が終わりオフィスに戻ったとき、これらの評価を、みなさんにしていただきたいと思っています。オフィスにだって問題はあります。もし社員全員が「在宅勤務のほうが良かった」なんて思っていたら馬鹿らしいでしょう?一体どうしてそんなオフィスに賃料を払うんです?在宅勤務を見つめるということはオフィスを見つめるということ。そうするうちに私の言う新しい時代、つまり働き方で働く場所を選ぶという選択肢が、もしかしたらあなたにはあり得るかもしれません。その時に「在宅勤務をやってみて、何か困ったことはあったかな?」と頭で思い浮かべるのは想像に難くありませんね。そしてその中身が酷くぼんやりとしているだろうということも。私はオフィスが完全になくなるだろうとは思っていません。考えるのは、働く場所が選択できる時代にオフィスはどういう形であるべきか?ということです。つまり、在宅勤務で困ったこと、それを補うのがオフィスであるべきなのです。その時、この日記が都合の良い備忘録としてお役に立てればいいと思います。

WPD/S・O