働き方改革 在宅勤務備忘録 その4 ~コミュニケーション編1

POINT
  • オフィスのコミュニケーション
  • 親方制度
  • 人が集まる雑談
  • 人がいる、というメリット

コミュニケーション、それは人類最大の発明であり、また私たちがオフィス作りで最も大切にする要素でもあります。「オフィスとはすなわちコミュニケーションにあり」…と誰が言ったか言わないかはさておき、私たちオフィスデザイナーは常に社員同士の会話、接触、刺激を意識してレイアウトを作り、家具を選び、内装を決定しています。そして同時に、コミュニケーションの活発なオフィス作りに反対する人はいないはずです。それらはただひたすらに「コミュニケーションの促進が仕事の促進」と多くの人が信じているからに他なりません。
ところがコロナウイルスはそれを許しませんでした。三密の忌避は全くそれらを否定し、時代はそれまでの流れにひどく逆行した場所づくりを私たちに要求しています。社員同士がすれ違うことのできる動線をせっせと作っていたのに、これからは2mの距離を取れって?…コロナウイルスもいつかは終息するでしょう、そのあとの時代/社会のことを「ポストコロナ」なんて呼ぶ人も増えました(まるでポストアポカリプスのような響きで私はあまり好みませんが…)。その時代においてコミュニケーションとは、それまでのように誰もが両手を広げて迎え入れてくれるものではないのかもしれません。
一体、これからコミュニケーションがどうなるのか?それすなわち、私たちの仕事がどうなるのか?…それを考えるためにはまず、それまでのコミュニケーションがどのように私たちの仕事に作用してきていたのか、そして在宅勤務によってそれがどのように阻まれ、そしてどのように代わるのかを、改めて考える必要があるでしょう。

オフィスのコミュニケーション

人は失って初めて価値を知るとはよく言ったものです。さあ、それはわずか半年前。まず初めに、私たちの仕事がどれほどにコミュニケーションによって支えられていたのか、いま一度思い出してみましょう。

私のケースをお話しします。”あの頃”、私のオフィスは四人一島のデスクが縦横交互に配置されたレイアウトでした。これは収容効率とコミュニケーション、両方のバランスが最も良くとられた型です。島と島の間が動線になるので、席から離れてコピーを取りに行くだけでもたくさんの社員とすれ違うことができます。その上、すべての席が角になる(両隣を挟まれた席がない)ので、その場ですぐに立ち話ができました。座っている時も、くるっと後ろを振り向けば、後ろの島の人と簡単にミーティング。縦横交互に配置された島では「後ろの島」に当たる島が3つになるのでそれだけコミュニケーションも取りやすく、ちょうど島の角同士が集まる部分が広場のような効果を生んでいるため、会話が広がりやすい設計でした。これは建築理論からも裏打ちされた、交流を促進させるのに最適な型になっています。

親方制度

私は入社してからずっと隣席が同じ上司の方でした。経験も知識も豊富なこの方にはとてもお世話になり、いろいろと教えてもらったものです。仕事だけではなくオフの会話も交わすことで、リラックス(機械的に言うならストレス緩和)の効果もあったでしょう。このように、経験の浅い社員の隣に手練れの社員を充てる配置、これはほとんどの企業で取られている作戦です。若手社員の業務を監督できること、あるいは若手のケアをいつでもできることに利点があります。若手とは言いますが、それは業界経験の豊富さに左右されません。例えどんなにベテランの中途採用であっても、初めてのオフィスにあってはコピー用紙の場所すら分からないのですから…あるいはプロジェクトの参加者ごとに席をまとめるのも、この一部に含めてよいでしょう。

仕事上、本当に細かい、誰かに電話やメールするほどではない疑問というのは山のようにありますよね。「〇〇さんって部署どこでしたっけ?」「次の接待、いいお店ないですかね」「あのトラブルは結局どうしたんですか?」「こういうことやったことあります?」「このメール、どういう意味だと思いますか?」逆もまた然りです。上司が若手を監督するパターン。「それ、こうしたほうが速いよ」「さっきしてた電話、もしかしてこういう状況じゃない?」「何か詰まってるの?」「この前、講演会があってさ。これもしかしたら君の案件で…」。もしもあなたの隣で若手が作業をしていたら、ついつい彼のPC画面に目を配らせてはしまいませんか?これはあくまで私の直感ですが、若手の業務のほとんどが、こういった細かなサポート/配慮によって支えられているのだと思います。

ハインリッヒの法則によると1の重大な事故の前には29の軽微な事故と300のヒヤリハットがあるそうですが、その300を未然に防ぐのが、こういった「席の近い監督者」による気遣いなのだと私は思うのです。 より具体例を挙げましょう。私はインテリアデザイナーですので図面を書きます。私の後ろを横切る先輩方は、何気なくこの図面を覗き込んでくれていたのでしょう、時々「そこ、間違ってるよ」と教えてくださったものです。あるいは通りかかった人に私から声をかけて、「ここ、合ってますか?」と尋ねることもありました。在宅勤務になるとそんなコミュニケーションが全くなくなります。ああその結果、今まではありえなかったつまらない作図ミスが頻発することとなったのです。これぞまさにヒヤリハット。これは「今までコミュニケーションによって防がれていたヒヤリハットが顕在化した」と見るのが良いでしょう。そのミスに気が付いたのが監督者なのかお客様なのかの違いです。もちろん、どちらが良いかは言うまでもありませんが。

これは一種の親方制度、師弟関係であるとも言えます。若手の働きを経験者が監督する、あるいは経験者の働きぶりを若手が横で見て学ぶ。古今東西で見られたこの制度は、とても理にかなっているため現在もあらゆる企業で(それと意識はしていなくても)採用されているはずです。ベテラン刑事と新米のタッグなんて、まさに適例です。もちろん在宅になっても上司に連絡を取る手段はありますが、今まで隣にあったお手本を突然奪われるのです、習熟のスピード、あるいはミスの見落としには確実に影響します。これはオフィスのコミュニケーションが奪われた、その弊害のひとつであるといえるでしょう。

人が集まる雑談

隣同士の会話のほかにも、注目すべきオフィスのコミュニケーションがあります。それは私たちが「偶発的な会話」だとか「タッチダウンスペース」だとか「マグネットスペース」と呼ぶものです。オフィスにはいろんな人がいます。自分と直接に関係のある社員もいれば、自分とは部署も業種も異なる社員も。実は現代のオフィスというのは、そういった「自分とは異なる環境/仕事をしている人との会話にこそ新しい発想が生まれるチャンスがある」という考えが基になって作られています。シェアオフィスもそこから生まれた新しいオフィスのひとつです。

ふたたび私の例をお話ししましょう。弊社のオフィスには建材サンプルをまとめて置いた書庫と、それを読むための大きいテーブルが用意されています。このテーブルにはデザイナーを始め、営業、施工などのいろんな業種の方が集まり、各々必要な建材サンプルを広げ検討しています。こういった「いろんな人が集まる」ことこそが、オフィス作りの肝なのです。当然そこには会話が生まれます。仕事に関することもあれば、今晩一杯どう?なんて話もあるでしょう。その人の顔を見ることで、相談したかったことを思い出す…なんてのはよくあることで、もし自分に知識のないことで悩んでいたところに、その道のプロが現れたならばそれはもう地獄に仏。これほどオフィスに感謝することはありません。このように仕事の相談をする、あるいはふらりと現れた人に簡単に相談できるような関係づくりを普段から行う、それらを包括したコミュニケーションを社内で起こす仕組みを作ることで、仕事の「ひらめき」「解決策」が生まれます。

あるオフィスではそれはカフェスペースかもしれません。あるいはリフレッシュスペースかもしれません。重要なのはそこがどのような使われ方をするのか?ではなく、どれだけ人が集まるか?にあります。その上で、姿勢を変えたりコーヒーメーカーがあったりといった、仕事の方法をリフレッシュさせるような機能もあれば、さらに良いですよね。私も気分を変えようとそこで仕事をしていたら、先輩が声をかけてくれた、なんてことは日常茶飯事です。そしてそこでちょっと雑談をしていると、また誰かがやってきて、さらにそれを横で聞いていた誰かが入り、最後には大きなサポートにつながることだってあるのです。

人がいる、というメリット

人が近くにいる、集まる。それは仕事にとって極めてプラスに作用し、現代のオフィス観、ひいては働き方を支えているといってもよいでしょう。初めに「オフィスとはすなわちコミュニケーションにあり」と言ったのはまさにこの意味においてです。そもそも社員同士が仲良くなるということ、これほど仕事が円滑に進む秘訣はありません(だから私たちは歓迎会を開く、ですよね?)。ところが在宅勤務は全くそれとは異なる働き方です。私の家に他の社員がふらりとやってくることもなく、また私が上司の家を訪ねることもありません。上司に相談している通話に、第三者が入ってくることだってありません。みんなが自宅にいる中で、私たちはコミュニケーションというものをどう行えばよいのでしょうか?

今回は、今までのオフィスのコミュニケーションがどのように私たちの仕事を支えてきたのかをまとめました。そしてこれらのコミュニケーションは在宅勤務によって失われてしまったのは皆さんもご存じの通りだと思います。次回では、それらが失われた弊害と、その代わりについて、メモを残してみましょう。

WPD/S・O